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医療事故調査制度Q&A 患者として知っておきたい8つのポイント

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2015年10月1日、患者として長年要望していた「医療事故調査制度」が開始しました。医療機関としてどのような対応をすべきかというQ&Aはありますが、実際、いきなり当事者として悩まれる御家族・患者サイドとして最低限知っておきたいポイントをまとめました。

Q1医療事故調査制度の目的とは何ですか?

A12014年6月に成立した改正医療法が医療事故調査制度を盛り込んだものです。

この医療事故調制度の目的は、医療事故の「原因究明」と同種医療事故の「再発防止」の2点です。全国の医療機関から報告された医療事故について、第三者機関が原因を分析することを通じて、再発防止に取り組むことを目的とするわけです。

Q2医療事故の調査は具体的にどのように行われますか?遺族として何かすることがありますか?

A2医療事故が発生した時、医療機関はまず遺族に説明を行います。そして医療事故調査・支援センターに事故を報告します。

その上で、医療機関は院内事故調査に着手します。具体的には、診療録(カルテ)の確認、医療従事者からのヒアリング等を通じて、情報の収集・整理を行います。解剖まで行うかは遺族の意見もふまえてケースバイケースになっています。なお公平・中立な調査を行うために、外部からの委員も選任することが求められています。

このように院内事故調査は、医療機関が主体となって行うものですから、遺族が主体的に行う必要は必ずしもありません。

ただし、場合によっては、医療機関が遺族から聞き取りを行うこともありますし、聞き取りを希望する場合には医療機関に要望を出すことになります。さらに、遺族が不審に思うこと、調査して欲しいことをまとめて、医療機関側に渡しておくことも考えられます。既にこの時点で弁護士に依頼している場合には、弁護士が要望事項をまとめて医療機関に提出することもあるでしょう。

なお医療事故調査制度としての院内調査について、遺族に費用負担はありません(後述のQ7も参照)。

Q3どのような医療事故が調査の対象ですか?予期せぬ死亡とはどのような場合ですか?

A3医療事故調査の対象は、すべての医療事故ではありません。医療機関が予期しなかったものであり、医療に起因すると思われる死亡・死産が対象です。

「予期せぬ死亡事故」とは、(1)医療提供前に患者に死亡・死産が予期されていることを説明、(2)死亡・死産が予期されていることを診療録などに記載、(3)当事者や医療安全管理委員会から病院長が聴取し、死亡・死産が予期されていた──のいずれにも該当しないと管理者が認めたものと定義されています。

つまり予期せぬ死亡か否かについては病院長が判断することになるのです。

なお医療事故調査制度が開始した2015年10月1日以降に発生した医療事故が対象です。ですから、それ以前に発生していた死亡事故は、医療事故調査制度による調査の対象外となります。

例えば、医療機関が10月1日以前に発生していた死亡事故について、自主的に院内調査を行っている場合もありますが、患者側が医療事故調査制度に基づく再調査を依頼することもできません。

Q4「ご高齢だから死亡も含めて何が起こるか分かりません」と言われていた場合は、予期していたことになるのですか?

A4医療法施行規則第1条の10の2第1項第1号の患者又はその家族への説明や同項第2号の記録については、当該患者個人の臨床経過を踏まえ、当該患者に関して死亡又は死産が予期されることを説明していただくことになります。

したがって、個人の病状等を踏まえない、「高齢のため何が起こるかわかりません」、「一定の確率で死産は発生しています」といった一般的な死亡可能性についてのみの説明又は記録は該当しません。

Q5夫が病院で死亡しました。病院から「事故調査制度の説明をしたい」と言われましたがどういうことでしょうか?何か言っておくことがありますか?

A5病院長が医療に起因する予期せぬ死亡と判断した場合には、医療事故調査を行う必要があります。そこで、病院は、遺族に対して、事実経過と事故調査制度の概要を説明することが必要です。従って、病院から「事故調査制度の説明をしたい」と言われたということは、ご主人の死亡について「予期せぬ死亡事故」と判断して院内調査が開始することを意味します。この説明の際に遺族として意見を遠慮なく言って構いません。意見を伝えておくと、報告書に記載されることになっています。

病院はその後、第三者機関に対して、インターネットか書面で報告することになります。

Q6遺族が院内調査報告書をもらえますか、渡されない時はどうしたら良いですか?

A6省令・通知は「調査の目的・結果について、遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない」としており、報告書交付を義務化していません。

省令・通知案を作成する検討会において意見が対立したからです。医療機関側は「渡すと訴訟が増える」と危惧しているようですが、きちんと調査した報告書であるならば、訴訟増加に必ずしもつながるものではないでしょう。

かえって遺族の求めに応じないことによって訴訟を誘発する、訴訟での開示を求められるということになりかねません。

今後の運用の積み重ねを見る必要がありますが、遺族としては、院内調査報告書の提出を粘り強く求めていくことになるでしょう。

ちなみに遺族に不満がある場合には、第三者機関による再調査が実施され、その場合には、遺族・病院双方に対して調査結果報告書が渡されることになります。

Q7医療機関が行った院内調査報告に不信感があります。さらに別の調査を求めることができますか?

A7可能です。遺族(又は医療機関)が、医療事故調査・支援センターに対して、調査を依頼した場合には、医療事故調査・支援センターが改めて調査を行うことになります。

その調査は、既に終了している院内調査結果について医学的な検証を行う形で進められることが多いと思われます。医療従事者への事実確認のヒアリング・再発防止に向けた知見の整理などが予定されています。

なお医療機関による院内調査が終了する前に、医療事故調査・支援センターに調査を求める場合もあり得ます。その場合には、医療事故調査・支援センターが必要な事実確認を行うことになります。

医療事故調査・支援センターによる再調査については、報告書が医療機関にも遺族にも渡されます。

なお遺族が希望して再調査を求める場合には費用負担が発生します。遺族の費用負担は金2万円とされています。

Q8院内調査報告書ないし調査・支援センターの調査結果報告書では結局病院に責任があるかどうか分かりません。どうしたら良いでしょうか?

A8既に述べてきましたように、医療事故調査は、医療に起因すると思われる死亡・死産が対象です。ですから医療機関に法的責任があるか否かを問いません。逆に言いますと、医療事故調査を行う死亡事故の中にも、医療機関に法的責任が発生する事故、医療機関に法的責任はない事故が分かれることになります。

調査報告書は、あくまで原因分析を主体に行うものですから、法的責任の有無については言及されていないことが多いと思います。

法的責任があるか、つまり医療機関が患者の死亡に対して法的責任があり、損害賠償すべきか否かは、これまで通り、弁護士による医療調査が必要になってくることが多いと思われます。

Q9医療事故調査制度の運用状況はどうなっていますか?

A9院内調査が必要と届け出があった事案は、2015年10月1日の運用開始から2016年2月末まで類型140件になっています。開始した10月は19件、その後、11月・27件、12月・36件、1月・33件、2月・25件と推移しています。

地域的には関東信越地区が60件と一番多く、近畿22件、九州地区は20件と続いています。

診療科としては、内科が一番多く24件、外科19件、整形外科13件、産婦人科12件、精神科10件、心臓血管外科9件、泌尿器科8件、循環器内科7件、脳神経外科7件、消化器科7件となっています。

いずれにしろ医療事故調査は、年間1000件から2000件を想定していましたので、かなり少ない件数といえます。病院側に制度が周知されていないこと、院内調査必要な事案について調査を行っていないことが推察されます。