胃癌手術において縫合不全を生じて死亡
胃前庭部後壁に進行癌を認めた患者が、幽門側胃切除術を受けたものの、術後に腹腔ドレーンから胆汁が漏出し、腹腔内出血を併発して、多臓器不全にて死亡した事案において、医療機関が、1500万円の示談に応じた事案
胃癌手術などにおいて縫合不全を生じて、胆汁性腹膜炎等を併発して死亡するケースは、かなりの頻度で相談を受けるケースです。
いわゆる縫合不全とは、術後合併症の一つであり、縫合部の一部または全部が解離した状態をいいます。
裁判例も少なからずあり、例えば、大津地方裁判所平成5年9月27日判決などが医療機関側の責任を認めています。
本件は、私が受任後、まず患者側協力医から意見を聴取しました。その上で、相手方医療機関の主治医と面談。損害賠償請求書を送付したところ、相手方医療機関にも代理人が付いて、早期和解成立したものです。
後医の所見などから、十二指腸断端閉鎖に用いた金属ステープラーがはずれたことによる縫合不全によって胆汁液が腹腔内に漏出し、肝動脈瘤破裂を引き起こし、肝不全を主とする多臓器不全によって死亡したという機序(因果関係)が明らかな事案でした。
そこで、幽門部側胃切除にRoux-Y再建術(ルー・ワイ法)を実施する医療機関として、十二指腸断端閉鎖に用いた金属ステープラーを適切な方法によって実施して、縫合不全を引き起こさない注意義務があると主張しました。
また、そして、術後管理に際しても、患者のバイタルサインの推移、患者の訴える痛みの部位・程度、ドレーンからの排液の性状や量等を注意深く経過観察し、適切な検査を実施して縫合不全発生の有無を確認するとともに、縫合不全が発生したと診断した場合には、縫合不全に対する適切な治療法を選択し、実施する義務があると主張したものです。
さらに、本件は、術後1日目から多量の胆汁の漏出があったこと、しかも痛みとガーゼの汚染もみられたことから手術可能な医療機関に転送すべき義務違反があったとも主張しました。
これに対して、医療機関は、過失については強く争わない一方、患者には進行癌が見受けられたと主張しましたが、仮に癌が存在していたとしても、その進行速度いかんによっては、患者が平均余命を全うできた可能性も極めて高いと反論しました。
以上の経緯を経て、示談の比較的早い段階で、相手方医療機関が責任を認めて、1500万円の支払いに応じたものです。