切迫早産で入院中に呼吸困難となり、転院先で緊急帝王切開を行ったが、母が心肺停止で高度意識障害
里帰り出産のため帰省中、切迫早産で呼吸困難となったものの、医療機関の転院準備が著しく遅滞したため、転院先で緊急帝王切開を行ったが、母が心肺停止で高度意識障害を後遺したケースで、1億円の示談が成立した事案
本件は、妊娠28週の母が、生活している東京から出産目的で福岡に帰省して、里帰り出産のために医療機関を受診していたケースです。
その後、母は切迫早産の診断にて入院しましたが、尿蛋白にくわえて血圧上昇も見られるようになりました。
2週間後の夕方には、息苦しさを訴えるようになり、同日18時にはSPO2が80パーセントと悪化したため、酸素投与を開始しました。さらに胸部レントゲン撮影をしたところ、肺水腫所見が見受けられたため、医療機関は、集中治療室のある病院への転院の検討を開始しました。
ところがその後の転院先病院への連絡は3時間も遅れ、実際に転院が完了したのはSPO2の悪化から6時間も後になりました。
転院先病院は直ちに帝王切開にて分娩したものの、母は、心肺停止の影響で意識状態は改善せず、いわゆる寝たきりの状態が継続したというものです。
本件は転院準備が明らかに遅れた上、妊婦に急激な全身浮腫・高血圧・尿蛋白が出現したにもかかわらず、β刺激剤で肺水腫の原因になるリトドリンを継続して使用して肺水腫を引き起こすという問題点もうかがえました。そこで上記の各注意義務違反を主張して、詳細な損害請求書を送付しました。
これに対して、後遺症による慰謝料、後遺症による逸失利益、付添介護費等の損害として1億円で訴訟前の和解が成立しました。
総損害額としては、車両購入費や近親者固有の慰謝料を含めて1億6000万円を請求しましたが、医療機関側は保険限度額の1億円の提案をしてきたものです。
そして医療機関は、1億を越える請求を維持する場合には訴訟して欲しいということでしたが、御家族が早期解決を選択して1億円にて訴訟前の示談が成立したものです。
医療過誤においては、責任論(過失や因果関係)の争いが出発点になりますが、責任が認められる場合にも、損害額について詳細に検討して積み上げていくことが必要になります。
なお一刻を争う出産の場合、出産前はもちろん、出産後も状態の変化に応じて適切な措置を取ることが医療機関には求められています。
例えば、平成23年7月25日大阪地裁判決は、出産後に羊水塞栓症を原因とするDICに陥り、転送先で死亡した患者に関し、電話連絡の過誤により輸血の緊急手配が30分程度遅れた病院の措置について、適切な医療行為を受ける期待権を侵害したとして、不法行為であると判断しています。
(参考:古賀克重法律事務所ブログ「適切な医療行為を受ける期待権侵害」)