自宅階段から転落し後頭部痛を訴えているにもかかわらず医師が帰宅させ、その後急性硬膜下血腫により障害が後遺
患者(当時80代)が自宅階段から転落し、医療機関に搬送されたところ、CT・X線の検査結果に異常がないとして帰宅を指示され、帰宅後に意識レベルが低下・失禁症状などが出現し、再度救急車で搬送され急性硬膜下血腫と診断され緊急開頭手術を受けたものの、障害が後遺したケースについて、医療機関が責任を認めて2800万円の示談に応じた事案
階段から落ちるなどして頭部を強打した患者について、医療機関が硬膜下出血等を見落とし重篤化するケースは少なくありません。
本件では、日中14時ころ、80代の患者が急な自宅階段から転倒して頭部を強打しました。家族が心配して入院を希望したにもかかわらず、医師がその必要性がないとして帰宅させたばかりか、経過観察の必要性についても十分に説明していませんでした(なお実務経験の少ない医師が担当医でした)。
患者は帰宅後1時間ほどは通常に会話できていましたが、その後、眠いといって寝てしまい、18時からは失禁症状も出てきました。さらに22時には意識障害も出現したため、再度救急車に搬送され、23時に入院。翌午前1時すぎから緊急手術を受けましたが、重篤な後遺症が残ったものです。
急性硬膜下血腫については、最初の頭部CTで異常がないか、血腫が薄くとも、短時間のうちに増大することが往々にしてあるため、意識レベルの厳重な観察と経時的CT検査が重要とされています。
そして脳損傷が軽度の場合には、早期に血腫除去を行えば予後は良いされており、手術までの時間が予後を大きく左右すると指摘されているところです。
本件では患者が高齢者であり、60歳以上の患者の頭部外傷はハイリスク所見であると指摘されていること、しかも不整脈治療としてワーファリンを使用するなど出血傾向も示唆されることからすると、入院を希望する患者家族の意向を遮り、自宅に帰宅させた医師の判断には明白な注意義務違反があると主張しました。
これに対して、上司の医師も担当医の過失を認めた上、早期示談成立に至ることができました。
なお損害額としては、3000万円強の請求に対して、当初は半額程度の提案にとどまりました。複数の医療文献・論文・裁判例を提出して注意義務違反の問題点を指摘して交渉した結果、ほぼ満額に近い2800万円まで引き上げることが出来たものであり、御家族にも大変喜んで頂けました。