未破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術によって寝たきりになり、説明義務違反が認められた
患者(当時60代)の未破裂脳動脈瘤に対して、クリッピング術を行ったところ、患者は下半身に完全麻痺が後遺して寝たきりになったケースについて、医療機関が説明義務違反を認め、再発防止を約するとともに、主治医が和解の席上で謝罪して800万円の示談が成立した事案
本件の未破裂脳動脈瘤は中大脳動脈にあり、大きさは2~3mmと小さなものでしたが、クリッピング術が行われ、患者さんは寝たきりになったものです。
示談段階で300万円の呈示がなされていましたが納得できずに提訴に踏み切りました。
未破裂脳動脈瘤に対する手術適応は、ガイドラインが、「10mm前後より大きい場合には手術を強く勧める」、「5mm前後より大きく、年齢が70歳以下でその他条件が治療を妨げない場合は手術が勧められる」、「3、4mmの場合には、個別に判断する」としていますので、まず、手術適応がなかったと主張しました。
また医師団の中でも、「家族の同意がなければ未破裂脳動脈瘤についてはシャントのみ施行」という意見があったにもかかわらず、不十分な説明によってクリッピング術を実施したとして説明義務違反も強く主張しました。
そのほか、手技ミス、発生した症状についての機序(因果関係)なども強く争いになり、2名の医師尋問を経て和解協議が行われました。
福岡地方裁判所の和解案では、手術適応や手技ミスは認められませんでしたが、一方において、「無症候性の未破裂脳動脈瘤に対する予防的なクリッピング術を行おうとする医師には、高度の説明義務が課されている。自らの判断でクリッピング術等を受けるか否かを決定するために、できるだけ詳細かつ具体的な情報を提供すべき義務がある」として600万円の案が提示されました。
それに対して、原告から追加意見を提出するなど協議を重ねた結果、最終的には800万円にて和解が成立したものです。
本件の特殊性は、和解調書において謝罪文言を入れるだけでなく、執刀医が和解の席上に立ち会って、自分の言葉で同席した家族に謝罪したことです。
その他にも和解文言として、「被告が、医療従事者間において本件訴訟及び和解の事実を共有し、医療従事者に対して、医療を提供するに当たって適切な説明を行うように指導教育し、患者及び患者の家族が十分な理解をせずに医療を受けることがないように努める」との文言を入れることができました。
重大な結果が生じた医療事故ですから、もちろん患者御家族の損害を填補するには足りませんが、説明義務違反のみとしては比較的高額の金額が成立した事例と言えるでしょう。