里帰り出産の際、骨盤位(逆子)に外回転術を受け、子が常位胎盤早期剥離による低酸素脳症を後遺
【事案の概要】
里帰り出産の際に、骨盤位(逆子)を指摘された妊婦(30代)が個人産科医院の外回転術を受けたところ、子が常位胎盤早期剥離による低酸素脳症にて出生し、後遺障害を後遺したという事案です。
外回転術とは、母体腹壁から胎児の頭部と臀部を把持し、児を回転させて非頭位から頭位に矯正する操作をいいます。
外回転術は、施行時に胎盤早期剥離、胎児心拍数パターン悪化、破水、胎児仮死など合併症を引き起こす危険性があります。したがって、医療機関は、厳重な児心拍数モニターを行うとともに、リアルタイム超音波断層法を用いて、胎児・胎盤の位置及び胎児心拍数の変動を十分に観察しつつ、緊急帝王切開が可能な施設において、分娩室にて実施すべきとされています。
また教科書レベルでも「リスクに関する十分なインフォームドコンセントを得ておく必要がある」と記載されています。
本件は、33週の児であったため適応外ではないか、帝王切開準備のないまま複数回・長時間に渡る施術は義務違反ではないか、事前の説明が十分であったのか、医院から帰宅後数時間経過してから大量出血しており、施術と常位胎盤早期剥離との因果関係が認められるのか等、多岐に渡って争われました。
【裁判の経過】
原告被告ともに専門医の意見書を提出した上、詳細に準備書面による応酬が行われました。被告も本格的に争い、3名に及ぶ専門医の意見書を提出してきました。原告も経験豊富で著名な専門医の意見書を2回に渡り提出しました。
その上で、証拠調べでは、まず原告父と原告母の尋問を福岡地裁で実施。続いて、産科医院が東京だったため、出張尋問が産科医院会議室にて実際され、被告医師、看護師の尋問を行いました。
その後、和解協議が行われ、4000万円にて和解が成立したものです。
【ポイント】
いわゆる逆子に対する外回転術は、現在は余り行われていません。被告の個人産科医院は取扱いが多く、過去に医療事故は起こしていませんでした(被告主張)。
これに対して、原告家族の受け止めとしては、自信満々に説明されてリスクは全く説明を受けておらず、なかなか回らなかったのに無理に2時間以上施術されたために、常位胎盤早期剥離を引き起こしたと強く訴えていました。
双方激しく責任論・因果関係を争った事案でしたが、当事者の尋問を経て、裁判所の努力もあり双方歩み寄りを見せ、無事に和解成立に至った事案です。
東京の専門医との面談、東京での出張尋問、県外(九州、関東)の受診していた複数の医療機関訪問による聴取など、依頼者とともに各地に出張して立証を行った記憶に残る1ケースでした。