胃内視鏡・生検による癌見落としで胃癌ステージが進行
胃内視鏡、その後の生検によって癌所見が出ているにもかかわらず、見落としによって患者に告知しなかったため、患者が胃癌の治療機会を喪失して胃癌が進行してしまったケースて、医療機関が責任を認めて、3000万円の示談に応じた事案
癌の見落としは紛争の多い類型です。医療機関にとっては数多い患者の1人であっても、患者にとっては命がかかわる問題。癌の進行という重大な結果が、患者・家族に与える精神的な苦痛には甚大なものがあります。
特に、日本胃癌学会の全国的な調査によれば、胃がんに対して定型手術がなされた場合、ステージ別の5年生存率は、stageⅠA・93.4%、stageⅠB・87%、stageⅡ・68.3%、stageⅢA・50.1%、stageⅢB・30.8%とされます。つまり、胃がんは治療開始時の病期が患者の予後に直結することから、早期発見・早期治療が最重要視されているところです。
本件の患者は、黒色便が出たため、医療機関の診察を受け、胃内視鏡検査を受けることになりました。その結果、体上部後壁にH1stageの潰瘍が発見されたため、医療機関は生検も実施しました。
病理組織検査・報告書によると、「poorly differentiated adenocarcinoma(por2)」と記され、明確に腺癌の所見がありました。
ところが、医療機関は、患者に報告せず、その後、癌治療を開始することもありませんでした。その結果、2年後に受診した際には、患者の胃癌は、未分化細胞癌(stageⅣ)にまで進展していたというものです。
本件については、医療調査の結果、生検結果の見落としによる治療遅延という明白な注意義務違反があると考えましたが、一方において、損害額が争われる可能性がありました。
そこで、医療機関に対する損害賠償請求にあたっては、「明白な注意義務違反行為」と「stage進展という損害」との間に高度の蓋然性が認められる事案であるから、患者に生じた全損害を賠償する責任があると手厚く主張したところ、ほぼその主張が受け入れられ、3000万円で示談したものになります。
なお、裁判例の中にも、S状結腸癌の切除手術後の縫合不全で死亡した事案について、過失と結果との因果関係があるこことを認め、余命5年と評価して、5年間の逸失利益・慰謝料など2872万5180円の支払いを命じているものがあります。
医療過誤事案において、患者側弁護士は、どうしてもハードルの高い「過失(注意義務)」や「因果関係(機序)」に主張・立証に力を注ぐことになります。
しかしさらに、実際の被害に見合った「損害」の主張・立証にも工夫し、「損害額」が患者さん・ご遺族の気持ちに添うように努力する必要があると思っています。