吸引分娩によって帽状腱膜下血腫を生じDIC等の合併症により子が死亡
産婦人科が吸引分娩により、子に帽状腱膜下血腫を生じさせてDIC等の合併症により子が死亡したケースで、過強陣痛の傾向がみられたにも関わらず、吸引分娩を継続したことについて、慎重な手技を行うべき注意義務に違反していたことを医療機関が認めて、3500万円の示談が成立した事案
産婦人科の医療事故は母、子、その双方に重大な結果を残すことが多く、紛争の多い類型です。いわゆる産科医療補償制度が導入されましたが、補償対象や補償金額が限られているためです。
本件は予定日を過ぎても陣痛が開始しないため、誘導分娩目的で入院していたところ、子宮口全開後も娩出に至らず、児心音が低下して1時間後に吸引分娩が開始されました。産婦人科医が、吸引分娩を3回実施しましたが娩出に至らなかったため、救急車にて他の医療機関に転院しました。
転院先病院が緊急帝王切開術を行って娩出しましたが、子は帽状腱膜下血腫による出血性ショック状態に陥っており、その後、DICを併発して死亡したというものです。
お母さんから委任を受けて医療調査を開始しました。
まず吸引分娩は、児に対して頭血腫や帽状腱膜下血腫を生じやすいリスクがあるため、医療機関は、吸引分娩を実施する際、安易に頭血腫や帽状腱膜下血腫を生じさせないよう慎重な手技を行うべき注意義務を負担します。本件は過強陣痛の傾向がみられたにも関わらず、吸引分娩を少なくとも3回継続していることは注意義務違反があると考えました。
また、本件においては、初産婦だったことや様々な事情から吸引分娩では容易には娩出しえない事が事前に予想され、その場合、ただちに緊急帝王切開術に切り替えなければならず、そのためには、ダブルセットアップも念頭におきつつ慎重な対処をすべき点にも注意義務違反があると考えました。
以上のように、医療調査によって責任追及可能と判断し、お母さんと打ち合わせて示談交渉に移行することになり、損害賠償請求書を医療機関に送付しました。
その結果、相手方医療機関が責任を認めて、早期に和解が成立したものです。
なお損害賠償請求していく過程で、医療問題を取り扱う東京の弁護士とも意見交換して、極めて良く似た事案の裁判例を入手しました。一般に入手できる裁判集には掲載されていませんでしたので、非常に参考になりました。この裁判例を参考にダブルセットアップの論点にも言及したほか、様々な文献も入手するなど、患者側弁護士同士の連携の重要性を改めて感じた事件でした。