胸部X線検査の異常疑いの指摘を見過ごしたため肺癌の治療開始が2年遅れて死亡した
術前胸部X線検査において異常が疑われ、「術後に胸部CTを」と主治医が記載していたにもかかわらず、治療を開始しなかったため、肺癌の確定診断が2年弱遅れて適切な時期に治療を受けることが出来なかったケースについて、3300万円の示談が成立した事案
毎年報告されている医療事故、ないし、ヒヤリ・ハット事案においても、X線検査等において異常が疑われていたにもかかわらず、院内での引き継ぎが上手く出来ずに治療開始が遅れるケースは後を絶ちません。
その中でも癌の場合には治療開始の遅れによって深刻な結果を引き起こします。
X線検査において「異常が読影できるか」(つまり医師は異常なしと判断したが、振り返って異常と診断しべきであった)という争点もありますが、本件は、異常を読影しておきながら治療開始しなかった」という意味において、患者・家族の無念の思いには大きなものがありました。
医療機関も責任を認めて患者・家族に対して400万円の賠償提示をしていました。しかしながら事案・結果の重大性に照らして、提示金額に不満を覚えた家族から依頼を受けて、私が代理人として示談交渉したケースになります。
過失については争いがありませんでしたので、正面から損害論が問題になりました。
まず、肺がんは、組織系によって、「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、さらに非小細胞肺がんは、「腺がん」、「扁平上皮がん」、「大細胞がん」に分かれます。
この中で「小細胞肺がん」は最も悪質であり、早期より全身に転移するとともに致命的になりうるという悪性度の高いがんです。一方、本件患者の罹患していた「非小細胞肺がん」は、進行度(病期)に応じて、治療方針が定められるとともに、生存率も決まってきます。
そして、その病期分類として、当方は胸部X線に異常が見受けられた時点においてはいまだステージ1期の可能性もあったと主張しました。これに対して、医療機関側は、診療経過等からしてステージⅡに進行していた可能性もあったと主張しました。
そのため、死亡による逸失利益の算定において、余命を何年として算定するかに対立があったほか、死亡慰謝料、親族固有の慰謝料など各損害項目についても開きが少なからずありました。
ただし、胸部X線検査の異常がはっきりと見受けられ、主治医が「術後に胸部CTを」という指示をしておきながら、その後、検査を行わなかったという過失(注意義務違反)の程度としては大きなものでした。
そのため、医療機関側も訴訟を回避して早期円満解決を希望し、最終的には双方が歩み寄り、3300万円にて示談が成立したものです。
肺癌の見落としケースは比較的法律相談も多い類型ですが、見落としがなかったとしても、どのような治療が可能であったが、生存率にいかなる影響があったか等、損害論の算定において様々な要素が複雑に絡み合います。つまり、5年生存率、当該患者の病状、裁判例などを総合的に検討しながら着地点を見いだしていくべき事故類型になります。
本件はその中でも比較的高額な損害額にて示談が無事成立した事案といえるでしょう。