靱帯再建術を施行した後にコンパートメント症候群が発症して後遺症が残存
前十字・後十字靱帯同時再建術を試行した後、患者にコンパートメント症候群が発症して後遺症が後遺したケースについて1900万円で示談が成立
スノーボード滑走中に転倒して左膝を負傷した患者が、前十字・後十字靱帯同時再建術を受けたところ、運動麻痺が発症しました。
患者は手術翌日から、足のだるさ・倦怠感・知覚麻痺・痛み等を訴えましたが、医療機関は2日間、経過観察にとどめて、3日目にようやくエコー等の諸検査が行われたものです。
その後、後十字再建術操作による下肢欠陥損傷と膝窩部の血腫からコンパートメント症候群を生じたものと診断されました。
コンパートメント症候群とは、骨や筋膜等で囲まれた部分(コンパートメント)内の内圧が上昇して、内部にある筋肉や神経が機能喪失もしくは壊死を来す疾病です。
原因としては、外傷性の筋肉内出血、浮腫、外的圧迫や絞扼、ギプス包帯や圧迫包帯などが指摘されています。
コンパートメントの内圧が上昇すると、動脈の攣縮を来して動脈血流が減少し、組織の血行障害を招いて筋肉と神経の壊死を生じます。
さらに、内圧の上昇が、静脈圧の増大を招いて循環障害を助長し、阻血による毛細血管の透過性亢進、血管外への浸出液漏出も加わって、コンパートメント内圧はさらに上昇するという悪循環に陥るわけです。
診断方法は、コンパートメント内圧測定、筋電図、CT、MRIが有用とされ、治療は、数時間の経過を見て改善しないときは、筋膜切開によってコンパートメント内圧の除去を行うこととされています。
患者には後遺症が残り、会社での業務にも多大な影響が出るほか、趣味のスノーボードやスポーツも行えないなど精神的苦痛を抱えて、当職に相談に来られたものです。
本件においては、患者が知覚麻痺・足のだるさ・痛み等を頻繁に訴えていたにもかかわらず、漫然と放置したものであって、経過観察義務あるものと判断して、医療機関に対して損害賠償請求を行ったものです。
医療機関側も弁護士に委任して責任を争いましたが、結局、有責を前提にした示談交渉が進み、1900万円にて示談が成立したものです。
コンパートメント症候群については、適切な経過観察の有無、迅速な処置の有無が争点になりますが、裁判例も有責・無責に分かれています。
診療経過の緻密な分析に基づいて、医療機関の経過観察の是非を検討することが不可欠になるといえるでしょう。