C型肝炎に対する適切な治療を怠り、患者が専門治療を受けないまま肝硬変・肝癌で死亡した
男性患者(70代)はクリニックで定期健診を受けていたが、C型肝炎に対する適切な治療を10年以上怠ったため、治療しないまま肝硬変・肝癌で死亡したケースにおいて、3000万円の示談が成立した事案
薬害肝炎弁護団事務局長としてC型肝炎問題に長年かかわってきたため、C型肝炎の患者さん・家族から様々な相談を受けることがあります。
福岡地裁を含む全国の裁判所に裁判を提起した2002年当時は、まだC型肝炎の治癒率は50%程度と言われている時代でした。今ではインターフェロン治療のみならずインターフェロンフリーなど副作用が少ないウイルス排除を目的とした治療が飛躍的に進んでいます。
合わせて肝硬変や肝がんに対する治療も進んでいます。
ところが相談を受ける事案では、進展したC型肝炎ウイルス(HCV)に対する医学的知見がクリニックレベルの治療現場に反映されていないものが見受けられます。
この患者は大学生時代に輸血歴があり、会社の健康診断で肝臓の数値(AST(GOT)、ALT(GPT))に問題があることを指摘されていました。
患者は昔からのかかりつけ医(内科)を受診し、肝臓について相談しましたが、「数値は落ち着いているからこれからも経過を見ていけば良い」と言われ、ウイルス検査やCT検査、そして専門医への紹介は行われませんでした。
その後10年近く定期健診(血液検査)を受けるだけで、インターフェロンやインターフェロンフリー等の専門的な治療は勧められなかったものです。
やがて患者は腹水や耐え難い倦怠感を感じるようになりました。子どもの強い勧めで総合病院を受診。C型肝炎ウイルス検査(HCVーRNA検査)でC型肝炎ウイルス感染が分かるとともに、肝生検で非代償性肝硬変と診断されました。総合病院の専門医も頑張って積極治療を行ってくれましたが、半年後には肝臓がんが判明し、翌年に死亡したものです。
遺族からの相談を受けてかかりつけ医だったクリニックに対して、損賠賠償・示談を申し入れました。
ご高齢の医師であり診療録の開示手続きにも強く反発するなど本筋以外の問題に色々と苦労しましたが、総合病院の専門医も意見書を作成するなど全面的に協力。
双方弁護士による協議に移行してからはスムーズに進み、3000万円にて示談が成立したものです。
示談成立したとはいえ、当然ながらご家族には「どうして治療してくれなかったのか」「お金は要らないから命を返して欲しい」という切実な心情が残りました。
肝炎問題の根深さを改めて痛感する事案でした。