開花性セメント質骨異形成症の患者にインプラントを行い咀嚼障害の後遺障害が残存した
開花性セメント質骨異形成症があるにもかかわらず、歯科医院が患者の上顎骨にインプラントを埋入したため、咀嚼障害等の後遺障害が残存した
セメント質骨異形成症とは、セメント質あるいは骨様の硬組織が増生する原因不明の病変です。
40歳代の女性の下顎前歯部や下顎臼歯部に好発します。萌出歯の根尖部に限局して見られる根尖性セメント質骨異形成症と、左右対称で家族性の開花性セメント質骨異形成症の2つの亜型が知られています。
そして、開花性セメント質骨異形成症は、病理組織学的には、無細胞性セメント質様硬組織と少数の細胞が封入した骨様硬組織が塊状に増殖した組織像を示し、線維性結合組織は根尖性セメント質骨異形成症に比べて圧倒的に少ないとされます。
治療法は根尖性セメント質骨異形成症と同様に不要であるとされています。
セメント質骨異形成症の患者に対してインプラント術を行うと炎症等を惹起させる危険性があります。したがって、歯科医院としてはインプラント術を回避するか、少なくとも十分な説明が求められることになります。
本件では歯科医院がセメント質骨異形成症の知見に対して十分な知見を有していなかったため、漫然とこの患者さんに対して上顎骨に対するインプラントを行ってしまいました。
その結果、患者はひどい炎症(骨髄炎)を起こしてしまいます。やがて炎症および腐骨は上顎全体に及びました。大学病院等の診察の結果、腐骨の分離とともに入院して全麻酔下による除去術まで必要となったという深刻な事案でした。
調査段階から私が受任して、その後、損害賠償請求を受任。
損害賠償請求を行い、歯科医院側の弁護士との示談交渉に入りました。後医が歯科医院の問題を指摘したこともあり、相手方は法的責任を認めるに至りました。
その上で、損害額について示談交渉をさらに行いました。複数回のやりとりの末、相手方は後遺障害を認め、後遺症慰謝料、後遺症逸失利益、入通院慰謝料等として総額2000万円弱という内容の示談が成立したものです。
被害にあった後、患者さんは再手術・治療にも相当な長期間を有したほか、固い物が全く噛めず、おかゆ状態しか食せないなど、後遺した咀嚼障害も極めて深刻な状態でした。
それでも患者さんの言い分を毎回丁寧にヒアリングして意思疎通しながら示談交渉を継続しました。その結果、無事、歯科事案としては高額な示談解決に到達したものです。