吸引分娩が遷延して5回以上の吸引を長時間行った結果、子宮内胎児が死亡
吸引分娩を繰り返し行ったものの、胎児徐脈となり、子宮内胎児が死亡したケースにおいて2200万円の示談が成立した事案
本件の医療機関は、出産予定日を迎えた妊婦に対して陣痛促進剤の点滴をした上、子宮口全開大した後、吸引分娩を行いました。その後7~8回の吸引を30分以上行ったものの持続性心音低下したため、総合病院に緊急搬送されました。
総合病院において子宮切開術等が行われたものの、子宮内で胎児の死亡が確認されました。
ガイドライン上、「吸引分娩における総牽引時間(吸引カップ初回装着時点から複数回の吸引分娩手技終了までの時間)が20分を越える場合は、鉗子分娩あるいは帝王切開を行うこと」(20分ルール)、「20分以内でも、吸引術は5回までとして、6回以上は行わない」(5回以内ルール)とされています。
ところが本件は20分を大きく越え、かつ、吸引回数も5回を大きく超えていましたので、この点について注意義務違反(過失)を主張しました。
なお分娩方法について注意義務違反(過失)を問うこともあります。分娩方法については、経膣分娩か帝王切開か、帝王切開を行うとしても何時行うべきかが問題となり、妊産婦の状況、胎児の状況、分娩の経過、逸出力の程度問うを総合して判断することになります。
また本件では「損害額」が大きな争点になりました。
民法上、胎児には権利能力がない、つまり「人」と見なされないため、「人」としての損害ではなく、両親の慰謝料としての損害賠償請求という枠組みになるからです。
そのため、新生児仮死等でいったん出産して直後に死亡したケースと、両親の苦痛としては違いがないにもかかわらず、損害額には大きな違いが発生してしまいます。
裁判例においても、出産時の胎児死亡について認容損害額は大きく分かれており(400万円のケース、900万円のケース、2000万円のケース、2800万円のケースなど)、事案に応じて損害立証を工夫する必要があります。
例えば2800万円を認容した東京地裁平成14年12月18日判決は、担当医が責任を隠蔽するためカルテを改ざんするなど、担当医らの極めて悪質な行為が認定され、慰謝料増額事由として評価されています。
本件では、出産直前に、頭を逸出した後に死亡したこと、母親が子宮破裂して今後の出産が困難であることについて、診断書等で丁寧に立証した結果、比較的高額な損害額で示談成立したものです。