交通性陰嚢水腫に対する陰嚢水腫根治術を行った際、精管を損傷した
交通性陰嚢水腫に対する陰嚢水腫根治術を行った際、精管を損傷したため、損傷部位の縫合手術が行われたものの、将来的に男性不妊(閉塞性無精子症)や精液瘤が発生する可能性があるとして、300万円の示談が成立した事案
陰嚢水腫(陰嚢水瘤)とは、精巣固有鞘膜または腹膜鞘状突起腔内に漿液が貯留したものです。腹膜腔と精巣固有鞘膜腔が連続して液体が貯留している場合を交通性陰嚢水瘤といいます。
通常は無症状ですが、大きくなると陰嚢の不快感や違和感を訴えることがあります。
小児では約7割が自然治癒を期待できるため経過観察を行いますが、有症状の場合は根治手術の適応となります。根治的手術では陰嚢あるいは鼠径切開にて余剰固有鞘膜の切除・縫合を行うことになります。
本件は、精索水瘤を周囲から剥離する際に、精管を損傷してしまったという事案でした。損傷部位は縫合修復されましたが、精管自体は細く内腔も狭い臓器であるため、縫合修復したとはいえ内腔が閉塞している可能性が残ったものです。
医療機関は損害未発生であるから賠償請求に応じられないというスタンスでしたが、私が依頼を受けて医療機関との示談交渉を開始しました。
被害者が未成年であるため、事故による損害の程度が確定していないという特殊性についてどのように評価するか、将来の不安に対してどのように慰謝するかというところが問題になりました。
例えば成人男性の場合には、睾丸摘出の後遺障害が11級と認定され、後遺障害慰謝料で560万円が認定された裁判例もあります。しかし本件では損害の程度が未確定であるため、それを前提した上、双方が歩み寄って早期に解決することを目指しました。その結果、現時点の損害額として300万円にて合意に達しました。
また、患者の将来に対する不安が極めて強い事案でしたので、金銭賠償だけではなく将来にいかなるフォローができるかも大きな論点になりました。
交渉の結果、患者が成人した後、医療機関側の費用にて精液検査を行うことができ、精子の数や運動率に異常が判明した場合には改めて本件医療事故との因果関係を協議するとの条項を盛り込むことができ、無事、示談成立となったものです。