吸引分娩時に肩甲難産となり、出生した新生児がその後死亡した
吸引分娩を実施したものの肩甲難産となり、出生した新生児がその後死亡したケースについて、2000万円強の示談が成立
本件は複数回の吸引分娩を実施したものの、肩甲難産となってしまい、何とか児が出生したが死亡したというケースです。
肩甲難産(けんこうなんざん shoulder d.)とは児頭の娩出後に肩甲部が母体の恥骨後面に引っ掛かり、円滑に娩出されない状態をいいます。産科医が直面する分娩時の緊急事態ともいわれてます。肩甲難産によって逸出困難になると、低酸素血症やKlumpke麻痺といった重篤な合併症を起こすことがあります。
通常、新生児は児頭が最も大きいため、児頭が逸出されれば、その後の肩・胸郭・腹部・下肢は滞ることなく逸出されます。ところが4500グラムを超える巨大児の場合や児頭周囲よりも児肩甲周囲が大きい時には円滑に逸出されず、いわゆる肩甲難産という状態に陥るわけです。
医療機関は肩甲難産だと事前に認識した場合には帝王切開など分娩方法の選択には十分配慮する必要がありますし、分娩時に現実に肩甲難産になった場合には直ちに分娩室内の分娩介助チームメンバーと情報共有した上、マクロバーツ法や恥骨上部圧迫法など適切な処置に着手すべきです。
本件は肩甲難産と思われた後も、担当医師が漫然とガイドラインを超える回数の吸引を繰り返したという事案でした。
児が死亡した後、ご家族から依頼を受けて医療機関と示談交渉を行いました。医療機関は「4000グラムを超える巨大児ではなかったので事前に肩甲難産は予見できなかった」として法的責任を争いました。
これに対して、当方は協力医からのアドバイスを受けつつ、詳細にカルテを分析。その上で分娩選択法の過失や説明義務違反も絡めながら複数の主張を行い、医療機関と直接面談して意見交換しました。
その後、医療機関側も事案に照らして早期円満解決を受け入れることになり、訴訟前の示談が成立したものです。肩甲難産による産科医療事故は訴訟も多い論点ですが事案に応じては判断が分かれています。本件も様々な要素があり、双方、訴訟まで検討するかギリギリの交渉になりましたが、早期解決に至り、ご家族にも喜んで頂けた事案でした。