未破裂脳動脈瘤(3㎜)に対するクリッピング術後に脳梗塞・麻痺・言語障害が発生した
患者(当時50歳・男性)が未破裂脳動脈瘤(3mm)に対してクリッピング術を行ったところ、患者に右半身麻痺・言語障害などの後遺症が残り、1500万円にて示談が成立した事案
患者が半年前から職場で頭痛に悩まされていましたが、ある日、会議中に堪えられない痛みを感じたため救急搬送されました。そしてMRI検査を行ったところ未破裂脳動脈瘤を指摘されました。
脳動脈瘤は、破裂・出血してくも膜下出血を起こした破裂脳動脈瘤と、破裂に至る前の未破裂脳動脈瘤に区別されるところ、無症候性未破裂脳動脈瘤は、症候性脳動脈瘤に比べてより小さく、破裂の危険性がより低いとされています。
そして、未破裂脳動脈瘤に対する手術適応については、「10mm前後より大きい場合には手術を強く勧める」、「5mm前後より大きく、年齢が70歳以下でその他条件が治療を妨げない場合は手術が勧められる」とした上で、「3、4mmの病変、また70歳以上の場合には、脳動脈瘤の大きさ、形、部位、手術のリスク、患者の平均余命などを考慮して個別に判断する」とされています(脳ドックのガイドライン)。
この点、患者の未破裂脳動脈瘤は3mmでしたから、十分に事前検討した上で、リスクについても十分な説明がなされるべきケースでした。
ところが患者及び家族に対して十分な説明がなされないまま手術が決定されてしまいました。
ネッククリッピング術(Neck clipping)が施行されましたが、術日の夜から左上下肢に麻痺が発生して増悪していきました。
翌日には左半身の不全麻痺にくわえて発語にも影響が出ました。
医療機関の説明によると、クリップの際に十分に注意をしていたが細い血管を巻き込んだ可能性もあるというものでした。
医療機関は「十分なリハビリなど出来ることはします」とはいうものの、不可避の合併症であり責任はないというスタンスでした。
そこで家族から依頼を受けて受任して、調査を経て損害賠償請求を行いました。その後、医療機関側にも弁護士がついて数回折衝して、1500万円にて示談が成立しました。
未破裂脳動脈瘤における合併症については広く知られていますし、医療過誤して紛争になるケースも後を絶ちません。それにもかかわらず医療現場では十分な事前説明をしないまま、漫然と手術に踏み切る医師が少なからずいる印象を持ちます。
なお未破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術後の後遺障害に対する損害は、過失の有無・程度によってかなり開きがあります。
高齢(84歳)の未破裂脳動脈瘤の患者に対して、クリッピング術を試みたものの、術中にクリッピングは困難と判断してラッピングのみ実施して終了したものの、術後に広範囲に脳梗塞を起こしたて死亡したケースについて、東京地方裁判所は、説明義務違反を認めたものの、適切な説明がなされても手術実施が変更されたとは認められないとして慰謝料200万円を認容しました。
このように、同じ未破裂脳動脈瘤に対する手術といっても、年齢・動脈瘤の大きさ等によってリスクは異なりますし、過失の程度も異なります。
私が相談を受けるケースについても、脳外科の専門医に必ず症例を見てもらい意見交換した上、方針を決めていくようにしています。