肺炎治療を受けていた患者が抗生剤(アンスルマイラン)の投与をによりアナフィラキシーショックによって死亡
肺炎と診断されて入院した患者(70代)が抗生剤(アンスルマイラン)の投与を受けたところ、アナフィラキシーショックによって死亡した事案において3000万円の示談が成立した事案
患者は5~6年前にも抗生物質によるショックによって治療した既往歴がありましたが、本件では、同じ病院が過去の既往歴を確認せずに抗生剤を投与したため死亡したものでした。
医療機関は治療に際して、薬剤の適応判断、薬剤の選択、薬剤投与量、薬剤投与の方法を適切に行う注意義務を負担します。
患者は実は数ヶ月前にも同じ病院において、ペニシリン製剤投与開始後にもショック状態に陥っていました。
今回投与されたアンスルマイランの添付文書には、原則禁忌として「本剤の成分又はペニシリン系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者」と明記されています。したがって、アンスルマイランを投与すれば、ショック状態に陥ることは容易に予見できるものでした。
そもそも医療機関は、患者のアレルギー反応等の既往歴について十分に問診すべき注意義務を負担します。ところが、病院は、患者がわずか2か月前にアナフィラキシーショックを起こして緊急処置に迫られていたにもかかわらず、十分な問診を行わず、カルテを精査することもなく、漫然とアンスルマイランを投与していたため、問診義務違反も明らかと考えました。
ご遺族から依頼を受けて損害賠償請求として受任して病院側に損害請求書を送付しました。
病院側にも代理人弁護士が付きましたが、交渉の結果、3000万円にて示談が成立しました。
このような薬剤の適切な選択ないし問診における注意義務違反が争われた裁判例は少なくありません。
例えば福岡地裁平成6年12月26日判決は、アスピリン喘息患者が歯科医師の投与したロキソニンによりアスピリン喘息発作を起こして死亡したケースについて、問診義務違反を認めて1920万円の賠償を命じています。
私の担当した訴訟においても、福岡高裁平成17年12月15日判決(判例タイムズ1239号275頁)が、上部内視鏡検査を受けていた患者が前処置としてのキシロカインの投与によりショック死したケースについて、問診義務違反による損害賠償を認めています(賠償額4673万円認容)。